口蓋裂とは、どのように割れているのか

典型的な口蓋の筋肉を抜き出したシェーマです。(もとはミラードのCLEFT CRAFTの図らしいです)

口蓋の後半は「軟口蓋」と呼ばれ、歯茎に囲まれた硬口蓋とちがい、骨ではなく筋肉でできています。
口蓋帆挙筋、口蓋帆張筋は翼突鈎で向きをかえて口蓋腱膜となり硬口蓋後部に位置しています。
そして口蓋垂のある中央たてに口蓋垂筋があります。
口蓋裂の状態では、筋層は左右で繋がっていません。正中で筋層は前方に移動して口蓋の骨組織に付いています。この絵は左右で口蓋の長さが同じになっていますが、本当は短いはずです。

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口蓋裂では左右の筋が本来繋がっているべきところが割れているために、筋本来の運動が損なわれています。そのため,「鼻咽腔閉鎖機能不全」という状態です。

これは,軟口蓋と咽頭襞が密着して「鼻咽腔閉鎖」という状態をつくることがうまくできないことです。
そのために,ことばが鼻に抜けてしまう(開鼻声),嚥下時に鼻に食物が逆流する、ラッパがうまく吹けない(空気が鼻に漏れる)という症状がおこってきます。

口蓋裂の手術というは,単に裂を閉鎖することではなくて,「鼻咽腔閉鎖機能不全」を治療することが目的であり、機能改善のための手術なのです。

口蓋裂の手術時期、手術法

口蓋裂の手術法には,手術の時期によって、一期法と二期法とがあります。

一期法とは,1歳から1歳半くらいの年齢で硬口蓋から軟口蓋までをすべて1回の手術で閉じようとする方法です。ただし,歯ぐきの部分は別に述べる顎裂部骨移植を行うために,完全には閉鎖しないこともあります。歯ぐきの部分を閉鎖しなくても言葉などへの悪影響はありません。
一期法で行う手術法には,プッシュバック手術やファーロー法などがあります。

1歳程度で口蓋をすべて閉鎖するので,言語などは早く正常な発音をえられると考えれられます。しかし,早期に手術を行うことは上顎の発育にたいしては,マイナス要因とされています。そのために,次に述べるような2段階法を行う病院もあります。

スイスのチューリッヒ大学ではじめられた二期法では,1歳半くらいの時期に軟口蓋だけを閉じます
前方には口蓋裂が残存したままです。硬口蓋は6歳くらいで閉じます
このように,硬口蓋が開いている期間が長いため,構音障害がおきやすいようです。言語療法士の先生と話をすると,やはり言語的には問題があるようです。
また,二期法では,口蓋床(ホッツ床)を生直後より使用して管理するのがふつうです。
口蓋床は,哺乳にも好影響をあたえるので,一期法手術を行う場合でも床を使用する場合もあります。

顎発育を考慮して実施される二期法ですが、どうしても硬口蓋を閉鎖するまでの期間は、鼻咽腔の閉鎖が不可能なので、よい言語を獲得できません。一部の歯学部口腔外科系で行われていますが、チューリッヒ方式よりも、早く硬口蓋を閉鎖していたり、軟口蓋の最初の閉鎖術をファーロー法にしたりと改良して実施されています。

Furlow 法 (ファーロー法)

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口腔側、鼻腔側でそれぞれZ形成を行います。肉を含むように口蓋垂側に基部をもつ粘膜筋弁を作製することにより筋層を後ろに移動させます。裂の幅が大きいと、とくに口蓋側に基部をもつ弁はうまく移動しないため、縫合が難しくなります。裂が広いときは、難易度の高い手術法になります。

PUSH BACK 法

上記の手術が開発されるまで、国内のほとんどの口蓋裂手術はプッシュバック法といえるでしょう。プッシュバック法は、1937年ワーデルとキルナーの発表した方法に端を発しています。古い手術法と言えます。

下図は札幌医科大学形成外科の図をお借りしています。短い口蓋を長く伸ばしたい、前方に偏位する筋層を後ろに下げてしっかりと縫合するという目的ですが、手術が終わったとき(右側)前方に黄色い創面が見えています。口蓋の骨が露出する場合もありました。今、この方法を使う場合は、口蓋前方に骨膜を残したり、粘膜を移植したり、人工物(人口真皮など)で保護したりと工夫しています。

二弁法 Two Flap法

Push back法と同じく口蓋の筋肉の処理を行った後で、まったく、口蓋弁を後方に移動させないで縫ってしまう手術法もあります。これがTwo Flap法です。

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http://emedicine.medscape.com/article/1279283-treatment#d10より引用した図です。

それでは、PUSHBACK・・・すなわち、口蓋を後方に下げるという手技は不要なのでしょうか。

日本国内で、白人の口蓋裂手術を経験することはほぼありませんが、実は、人種による頭や顔の形のちがいも、手術に大きく影響するのです。欧米の報告をみますと、プッシュバックもせずに簡単に口蓋を縫うだけの術式が実際に多く行われています。口蓋裂の術後言語成績もよいのです。

これは白人は顔の彫りが深いですから、顔面骨のかたちも日本人とは異なり、口蓋裂でもが口蓋がけっこう長いという人類学的な特徴があるのだそうです。最初の口蓋裂の解剖図で、口蓋裂の場合軟口蓋がもっと短いだろうと書きました。もしかすると、外国のメディカルイラストレーターは、白人の口蓋裂をみて、短く思わなかったのかもしれませんね。
ただ、割れてるのを縫うだけでも、口蓋垂が咽頭後壁まで届いてしまう。そんな形態だと言います。

わたしたちは、数多くのファーロー法手術を行っていますが、そうした意味からは、適切な口蓋形成手術を行えば、いわゆるプッシュバックは不要に思います。

アジア圏でも台湾のチャングン病院では、プッシュバックと同様に筋処理を行って、かつ、プッシュバックをしない、Two Flap法をやっていました。

裂が大きな口蓋裂ではTwo Flap法と口蓋裂の筋層再建をきちんと行い、小さめにZ形成を行う手法をとっています。